ドル転のタイミング(秘書問題からのアプローチとその考察)
米国株投資を毎月継続して実施するため、私たちは日本円を米国ドルに交換します。円を売ってドルを買う、通称「ドル転」です。
証券会社のサービスで日本円での買い付けが可能だったりしますが、実際には証券会社の定めたルールに従ってドル建て資産への為替決済がおこなわれます。
さて、毎月継続的にドル建て資産を買う場合に悩むのが、「いつドル転すればよいか?」ではないでしょうか。
この問題に、今回は確率・統計の「秘書問題」によるアプローチから迫っていきたいと思います。
秘書問題とは?
別名、花嫁問題、結婚問題と呼ばれ、特定の条件下における最良な選択をするための解決アプローチです。
秘書問題における特定条件は以下のとおりです。
- 秘書を1人雇いたい。
- n 人が応募してきている。n という人数は既知である。
- 応募者には順位が付けられ、複数の応募者が同じ順位になることはない(1位からn位まで重複無く順位付けできる)。
- 無作為な順序で1人ずつ面接を行う。次に誰を面接するかは常に同じ確率である。
- 毎回の面接後、その応募者を採用するか否かを即座に決定しなければいけない。
- その応募者を採用するか否かは、それまで面接した応募者の相対的順位にのみ基づいて決定する。
- 不採用にした応募者を後から採用することはできない。
- このような状況で、最良の応募者を選択することが問題の目的である。
n人のうち1人だけを選択すればよいので、普通に考えれば全員を面接してから候補者を絞ればよいのですが、ポイントは5番目と7番目。面接後に、即座に採用するかどうかを即座に意思決定する必要があり、かつその決定は二度と覆せません。
この問題の最適解は、最初から数えて37%の応募者をスキップし、それ以降に面接した応募者がそれまでで一番よいと判断したら採用するというものです。
nが十分に大きい場合、最前の応募者を選択できる確率は、およそ37%となります。
詳しい解説はWikipediaをご参照ください。
ドル転問題
さて、私たちが解決したいのは、いつドル転すればよいのか?です。
さきほどの秘書問題に当てはめてみます。ドル転問題における「応募者」は「ドル転する日」になります。いかに、円高ドル安のときにドル転できるかということですね。
- 月に1回、ドル転をしたい。
- 毎月の為替市場の開場日数を知っている。
- 為替市場は月初日から月末日まで順番に日付が到来する。
- 毎日為替相場は変動しランダムである。
- 毎日の為替相場を見て、その日にドル転するかどうかを即座に決定しなければいけない。
- その日にドル転するか否かは、それまでの為替相場(円高ドル安)にのみ基づいて決定する。
- ドル転を見送った過去の日付に遡ってドル転することはできない。
- このような状況で、最良の「ドル転する日」を選択することが問題の目的である。
上記条件をもとに、2018年で考察してみます。
ドル転問題を2018年に適用する場合
2018年の米国市場の休場日は土日および以下の特定の祝祭日となります。
上記を考慮した、各月の開場日数、および月初日から数えて 37%の日数が経過する日付(表で37%起点日)は以下のとおりとなります。
こちらの表の使い方。
- 各月で「37%起点日」の日付までは、ドル転をすべて見送る。
- このとき、月初日から「37%起点日」までの期間でのドル最安値を確認する。
- 「37%起点日」より後の日付から月末に向けての期間の中で、2.より円高ドル安となった時点で、ドル転する。
- もし、「37%起点日」から月末にかけて、2.より円高ドル安の相場にならなかった場合は、月末にドル転するか、翌月に繰り越す。
こうすることで、毎月37%の確率で最良のドル転をおこなうことができることになります。(あくまで理論上はですが)
と、ここまで自分で書いていて、本当かな?と思うところがありましたので、実際に2017年にこのアプローチを採用した場合にどうなるかを検証してみました。
ドル転問題を2017年に適用した場合(バックログ)
2017年の米国市場の休場日は土日および以下の特定の祝祭日となります。
上記を考慮した、各月の開場日数、および月初日から数えて 37%の日数が経過する日付(表で37%起点日)は以下のとおりとなります。
A列:月初から37%起点日までの最安為替レート(期間内での円高ドル安レート)
B列:ドル転問題の戦略に従って選択したタイミングでの為替レート
(なお、A列のレートよりも最良のものが出現しなかった場合は、月末のレートを採用しています)
C列:月末の為替レート
D列:各月内での為替レートの最安値(円高ドル安)
(ここでドル転できれば、神ってる状態です)
E列:各月内での為替レートの最高値(円安ドル高)
(ここでドル転していた場合、軽いショック状態です)
比較しやすいように、100万円を毎月均等にドル転した際のドル取得可能額(為替手数料は考慮していません)と、最良と比較したときの差額も表記しました。
ドルの最安レートでのドル転(D列)は、神様からのお告げがあった人とか、予知能力のあるエスパーとか、普通ではない人しか到達できない領域ですので、あくまで最善の結果の参考値として見てください。
ここで驚くことは、ドル転問題の最適戦略(B列)と、 何も考えずに月末にドル転した場合(C列)とで比較したときに、月末のドル転の方が有利であったということでしょうか。ですが、ドル転の平均為替レートを見る限り、誤差の範囲のようにも見えます。
年間の為替レートを眺めるとわかりますが、有事など突発的要因による一時的かつ大幅な円高ドル安となることが年に数回ほど発生し、そういうタイミングで一時的に円高に振れることがあります。
ドル転問題を2017年に適用してみての考察
バックログをもとに考察をまとめます。
・秘書問題をドル転問題に応用するのは、一定の効果が認められる。
・ただし、一定期日(月末とか)にドル転した場合と比較して、さほど大きな違いが見られなかった。
・月初から37%起点日までに、その月内でのドル最安値が到来したときに、機会損失になってしまう。
ひとまず、ドル転のタイミングについてはこんな感じで進めてみようと思います。
・平常時は、自分で決めたルール(この記事の戦略)に従って、毎月粛々とおこなう。
・有事発生時(突発的かつ大幅な円高ドル安)や長期視点(月足ベース)で円高と判断できる場合は、平常時のルールは無視して積極的にドル転する。